【抜粋記事】有機TFTを高速化、塗布型CNTをキャリア注入層へ
有機TFTを高速化、塗布型CNTをキャリア注入層へ
第77回応用物理学会学術講演会で、信州大学 工学部 電子情報システム工学科 教授の伊東栄次氏らは、「塗布型カーボンナノチューブを両極性キャリア注入層に用いて印刷型p型及びn型有機トランジスタの作製と評価」と題して発表した
OTFTの接触抵抗(電極-半導体界面)は、短チャネル化するほど接触抵抗の影響が顕著になる。従って、接触抵抗の低減が必要不可欠
OTFTの高速化には、短チャネル化とCR時定数の低減が欠かせない。対策として、キャリア注入バッファー層を挿入することが考えられる。

現在、印刷可能な電極は銀(Ag)ナノ粒子のインク、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンなどに限られており、キャリア注入の促進において仕事関数を自由に変えることは容易ではない
そこで、ナノ銀とカーボンナノチューブ(CNT)によるハイブリッド電極の開発を目指すことにした

これらの材料を複合化することで、抵抗が低く、頑丈で接触も良好な電極材料の開発を目指す
研究の目的は、以下の通り
・オール印刷によるOTFTの作製 (半導体、ソース・ドレイン電極のパターン化と積層)
・キャリア注入促進材料として、有機半導体と同じくπ電子共役系のMWCNTの挿入効果の検討
(n型およびp型について検討)
デバイスの構造はボトムコンタクト・ボトムゲート

P3HT OTFT(pチャネル)におけるMWCNT導入の効果を示す。同図に、「銀(Ag)電極のみ」「MWCNT」「Ag(MWCNT)コンポジット」および「MWCNT/Agの2層構造」の比較を示す。同図に示すように、Agの接触抵抗Rcが大きい。一方、MWCNTの接触抵抗は小さいが、シート抵抗Rsが大きい。そこで、AgとMWCNTを組み合わせれば両方を減らせる。

PCBM OTFT(nチャネル)におけるMWCNT導入の効果を示す

いずれの素子もAg電極だけでは接触抵抗が大きく、移動度も低かった。しかし、P3HTおよびPCBMのいずれもMWCNTを挿入することによって、性能が大きく向上した。すなわち、 MWCNT層が電子と正孔の両方について注入を促進したと言える
nチャネルおよびpチャネルにAg/MWCNTを適用したOTFTの特性を示す。塗布形成したP3HT(pチャネル)とPCBM(nチャネル)のOTFTのキャリア移動度がほぼ等しく、対象であるため、CMOSへの展開に有効と期待される

OTFTのキャリア移動度の推移を示す。OTFTの移動度は右肩上がりで大きくなり、酸化物半導体、例えばIGZO TFTと同程度の高い値を実現している

(1)オール印刷可能な有機系薄膜デバイスに向けて、以下の2つの材料を複合もしくは積層化することで、
低抵抗で丈夫な電極を印刷形成できる。
・金属ナノ粒子(AgNPなど:低抵抗、150℃以下で成膜可能)
・多層CNT:柔軟で丈夫、π共役系
(2)有機薄膜トランジスタへの応用展開
・多層CNT(MWCNT)をバッファー層とした印刷Ag複合電極
フレーレン誘導体(PCBM)のn型、ポリチオフェン(P3HT)のp型の両方に、
キャリヤ注入可能な印刷型電極として応用できる。
(3)滴下する半導体インクを変えるだけでp型とn型の両方を作製できるのでプロセス面で有利。
表面処理などによる高性能化も可能
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