物材機構と岡山大、室温で有機TFTを作製できる印刷プロセス確立
日刊工業新聞より。
物材機構と岡山大、室温で有機TFTを作製できる印刷プロセス確立

物質・材料研究機構と岡山大学は、有機薄膜トランジスタ(TFT)を
室温で印刷によって作ることに初めて成功したと発表しています。
プラスチック基板、および紙基板上に形成した有機TFTの移動度(動作性能)は、
酸化物半導体を活性層に用いる量産品のIGZO TFTに匹敵し、
アモルファスシリコンTFTに比べても約16倍の性能を達成したとの事。
物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、
岡山大の異分野融合先端研究コア助教兼、コロイダル・インク(岡山県総社市)社長の
金原正幸博士らが共同で開発したものです。
研究チームはすべての印刷プロセスを大気下・室温で行い、1℃も昇温することなくデバイスを
製造できる「室温プリンテッドエレクトロニクス(PE)」を確立したとしています。
今回、金属ナノ粒子の配位子として導電性を持つ芳香族性の分子を使い、塗布後に焼成することなく
金属皮膜を作る手法を開発したとの事。
同研究チームは高温プロセスが必要な理由を材料にまでさかのぼって追求し、
金属ナノインクが熱処理を必要とするのは絶縁性の配位子を用いているためであることに着目。
金属ナノ粒子に芳香族性の配位子を導入することによって、室温で塗布乾燥するだけで
金属レベルの導電性を発現する金属ナノインクの開発を実施 (図1(a))。
その結果、金属インクは塗布後に焼成することなく金属皮膜を形成し、
抵抗率9 × 10-6 Ω cmの薄膜を得ることに成功しています。
さらに室温導電性インクを用いて、電極、半導体層をすべて印刷で形成した
有機TFTをプラスチックおよび紙基板上に作製し (図1(b))、
それぞれ平均移動度7.9および2.5 cm2 V-1 s-1を達成しています。

図1 本研究で作製した室温導電性金属ナノ粒子と、室温印刷による有機トランジスタ
(a) 室温導電性金属ナノ粒子の模式図と走査電子顕微鏡写真。
(b) 室温印刷プロセスによって形成した有機TFTの模式図。
さらに、表面に微細な親水・疎水領域を形成し、濡れ性の違いを用いて親水領域にのみ
インクを塗布する選択的成膜技術を確立しています。
表面に微細な親水・疎水領域を形成するために、エキシマ光照射装置を有するマスクアライナ (図2(a)、(b))を開発し、
真空紫外光(VUV)照射による撥水性ポリマーの表面改質処理を実施。
ウシオ電機製のエキシマ光照射ユニット(波長172 nm)を用いて、短波長のVUV光を
フォトマスクを通して選択領域にのみ照射しています。
本技術の優れた点は、大気下プロセスによって全く昇温を伴うことなく
基板表面に微細な親水・疎水性パターンを形成し、
真空蒸着を用いることなく電極を印刷で形成できることとしています (図2(c))。
金属ナノインクは親水領域のみに塗布・成膜されるため、VUVを照射した形状で電極が形成されるとの事。。
常温導電性金属インクで形成した電極の例が図2(d)、(e)ですが、
最高で線幅10 μm程度の配線が形成可能であることを確認しているそうです。

図2 表面選択的成膜法による室温導電性金属ナノ粒子のパターニング
(a) マスクアライナ付エキシマ光照射装置の模式図。フォトマスクを介して波長172 nmのVUV光を表面に照射できる。
(b) 実際の装置の外観。(c) 表面選択的塗布技術の模式図。
(d)、(e) 室温導電性金属ナノ粒子によってプラスチック基板上に形成した微細配線。
加えて室温印刷プロセスを用いて、数100個の有機TFTをプラスチック基板上に一括で印刷を実施(図3(a))。
ソース・ドレイン電極、有機半導体層、ゲート絶縁層、ゲート電極の4層を、
完全なパターニングを行った上で積層しているので、素子間のクロストークやリーク電流といった問題を生じることなく、
各素子を独立して動作することができるそうです(図3(b))。
室温印刷による有機TFTの出力特性 (図3(c))と伝達特性 (図3(d))。
これらの特性は、印刷有機TFTが理想的な薄膜トランジスタとして動作していることを示しており、
素子の移動度の平均値は、7.9 cm2 V-1 s-1と見積もることができたとの事です。

図3 室温印刷による有機TFTの動作特性
(a) プラスチック基板上に室温印刷プロセスで形成した有機TFTアレイ。
(b) 単一の素子の拡大図。(c) 室温印刷プロセスで形成した有機TFTの出力特性。
(d) 室温印刷プロセスで形成した有機TFTの伝達特性。
熱に弱い紙基板に有機TFT素子を印刷することも実施しています。
基材として市販のインクジェット用紙(耐熱温度50~60℃程度)を用いており、
この用紙は60℃程度の加熱でも著しく劣化しますので、室温プロセスによって初めて素子の印刷が可能になります。
インクジェット用紙であることを示すため、用紙の表面に家庭用インクジェットプリンターでNIMSのロゴマークを印刷し、
その後に有機TFTをマトリックス状に500個程度形成しています (図4(a)、(b))。
素子の拡大写真を見ると、家庭用インクジェットのドットと比較してかなり
微細な素子が印刷できていることが分かります (図4(c))。
紙の表面に印刷した有機TFTの動作特性を図4 (d)に示しています。
紙表面の凹凸のためプラスチック基板上の素子に多少劣りますが、
素子の平均的な移動度は2.5 cm2 V-1 s-1と見積もることができたとの事。

図4 紙に印刷した有機TFT
(a) 市販の写真用紙の表面に室温印刷プロセスで形成した有機TFTアレイ。
(b) マトリックス状に印刷した有機TFT。(c) 素子の拡大図。 (d) 室温印刷で形成した有機TFTの伝達特性。
インク状の材料を印刷してデバイスを作製するPEは、
大面積化が容易かつ低コストな技術として注目を集めています。
室温PEを使えば、原理的には生体材料のような環境変化に弱いものの表面にも
デバイスを作製することができるとの事。
かなり画期的な研究成果だと思います。印刷プロセスの低温化はこれまでも研究されてきていましたが
フィルムの耐熱温度(100℃)程度の加熱が必要であったりと条件の制約がありましたが
今回は完全な室温の状態で素子を形成しており、加えて特性も良好との事で、
プリンテッドエレクトロニクスの開発の加速が期待されます。
岡山大学ニュースリリース
有機薄膜トランジスタを室温印刷によって初めて形成 1℃の昇温も行わない室温プリンテッドエレクトロニクスを確立
物質・材料研究機構ニュースリリース
有機薄膜トランジスタを室温印刷によって初めて形成
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発電する紙


物質・材料研究機構と岡山大学は、有機薄膜トランジスタ(TFT)を室温で印刷によって作ることに初めて成功した。プラスチック基板、および紙基板上に形成した有機TFTの移動度(動作性能)は、酸化物半導体を活性層に用いる量産品のIGZO TFTに匹敵し、アモルファスシリコンTFTに比べても約16倍の性能を達成した。
物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、岡山大の異分野融合先端研究コア助教兼、コロイダル・インク(岡山県総社市)社長の金原正幸博士らが共同で開発した。
研究チームはすべての印刷プロセスを大気下・室温で行い、1度Cも昇温することなくデバイスを製造できる「室温プリンテッドエレクトロニクス(PE)」を確立した。今回、金属ナノ粒子の配位子として導電性を持つ芳香族性の分子を使い、塗布後に焼成することなく金属皮膜を作る手法を開発した。表面に微細な親疎水パターンを形成し、常温導電性金属ナノ粒子と有機半導体を室温プロセスでパターニングし、電極などを室温印刷によって作製する。
インク状の材料を印刷してデバイスを作製するPEは、大面積化が容易かつ低コストな技術として注目を集めている。室温PEを使えば、原理的には生体材料のような環境変化に弱いものの表面にもデバイスを作製することができるという。
物材機構と岡山大、室温で有機TFTを作製できる印刷プロセス確立

物質・材料研究機構と岡山大学は、有機薄膜トランジスタ(TFT)を
室温で印刷によって作ることに初めて成功したと発表しています。
プラスチック基板、および紙基板上に形成した有機TFTの移動度(動作性能)は、
酸化物半導体を活性層に用いる量産品のIGZO TFTに匹敵し、
アモルファスシリコンTFTに比べても約16倍の性能を達成したとの事。
物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、
岡山大の異分野融合先端研究コア助教兼、コロイダル・インク(岡山県総社市)社長の
金原正幸博士らが共同で開発したものです。
研究チームはすべての印刷プロセスを大気下・室温で行い、1℃も昇温することなくデバイスを
製造できる「室温プリンテッドエレクトロニクス(PE)」を確立したとしています。
今回、金属ナノ粒子の配位子として導電性を持つ芳香族性の分子を使い、塗布後に焼成することなく
金属皮膜を作る手法を開発したとの事。
同研究チームは高温プロセスが必要な理由を材料にまでさかのぼって追求し、
金属ナノインクが熱処理を必要とするのは絶縁性の配位子を用いているためであることに着目。
金属ナノ粒子に芳香族性の配位子を導入することによって、室温で塗布乾燥するだけで
金属レベルの導電性を発現する金属ナノインクの開発を実施 (図1(a))。
その結果、金属インクは塗布後に焼成することなく金属皮膜を形成し、
抵抗率9 × 10-6 Ω cmの薄膜を得ることに成功しています。
さらに室温導電性インクを用いて、電極、半導体層をすべて印刷で形成した
有機TFTをプラスチックおよび紙基板上に作製し (図1(b))、
それぞれ平均移動度7.9および2.5 cm2 V-1 s-1を達成しています。

図1 本研究で作製した室温導電性金属ナノ粒子と、室温印刷による有機トランジスタ
(a) 室温導電性金属ナノ粒子の模式図と走査電子顕微鏡写真。
(b) 室温印刷プロセスによって形成した有機TFTの模式図。
さらに、表面に微細な親水・疎水領域を形成し、濡れ性の違いを用いて親水領域にのみ
インクを塗布する選択的成膜技術を確立しています。
表面に微細な親水・疎水領域を形成するために、エキシマ光照射装置を有するマスクアライナ (図2(a)、(b))を開発し、
真空紫外光(VUV)照射による撥水性ポリマーの表面改質処理を実施。
ウシオ電機製のエキシマ光照射ユニット(波長172 nm)を用いて、短波長のVUV光を
フォトマスクを通して選択領域にのみ照射しています。
本技術の優れた点は、大気下プロセスによって全く昇温を伴うことなく
基板表面に微細な親水・疎水性パターンを形成し、
真空蒸着を用いることなく電極を印刷で形成できることとしています (図2(c))。
金属ナノインクは親水領域のみに塗布・成膜されるため、VUVを照射した形状で電極が形成されるとの事。。
常温導電性金属インクで形成した電極の例が図2(d)、(e)ですが、
最高で線幅10 μm程度の配線が形成可能であることを確認しているそうです。

図2 表面選択的成膜法による室温導電性金属ナノ粒子のパターニング
(a) マスクアライナ付エキシマ光照射装置の模式図。フォトマスクを介して波長172 nmのVUV光を表面に照射できる。
(b) 実際の装置の外観。(c) 表面選択的塗布技術の模式図。
(d)、(e) 室温導電性金属ナノ粒子によってプラスチック基板上に形成した微細配線。
加えて室温印刷プロセスを用いて、数100個の有機TFTをプラスチック基板上に一括で印刷を実施(図3(a))。
ソース・ドレイン電極、有機半導体層、ゲート絶縁層、ゲート電極の4層を、
完全なパターニングを行った上で積層しているので、素子間のクロストークやリーク電流といった問題を生じることなく、
各素子を独立して動作することができるそうです(図3(b))。
室温印刷による有機TFTの出力特性 (図3(c))と伝達特性 (図3(d))。
これらの特性は、印刷有機TFTが理想的な薄膜トランジスタとして動作していることを示しており、
素子の移動度の平均値は、7.9 cm2 V-1 s-1と見積もることができたとの事です。

図3 室温印刷による有機TFTの動作特性
(a) プラスチック基板上に室温印刷プロセスで形成した有機TFTアレイ。
(b) 単一の素子の拡大図。(c) 室温印刷プロセスで形成した有機TFTの出力特性。
(d) 室温印刷プロセスで形成した有機TFTの伝達特性。
熱に弱い紙基板に有機TFT素子を印刷することも実施しています。
基材として市販のインクジェット用紙(耐熱温度50~60℃程度)を用いており、
この用紙は60℃程度の加熱でも著しく劣化しますので、室温プロセスによって初めて素子の印刷が可能になります。
インクジェット用紙であることを示すため、用紙の表面に家庭用インクジェットプリンターでNIMSのロゴマークを印刷し、
その後に有機TFTをマトリックス状に500個程度形成しています (図4(a)、(b))。
素子の拡大写真を見ると、家庭用インクジェットのドットと比較してかなり
微細な素子が印刷できていることが分かります (図4(c))。
紙の表面に印刷した有機TFTの動作特性を図4 (d)に示しています。
紙表面の凹凸のためプラスチック基板上の素子に多少劣りますが、
素子の平均的な移動度は2.5 cm2 V-1 s-1と見積もることができたとの事。

図4 紙に印刷した有機TFT
(a) 市販の写真用紙の表面に室温印刷プロセスで形成した有機TFTアレイ。
(b) マトリックス状に印刷した有機TFT。(c) 素子の拡大図。 (d) 室温印刷で形成した有機TFTの伝達特性。
インク状の材料を印刷してデバイスを作製するPEは、
大面積化が容易かつ低コストな技術として注目を集めています。
室温PEを使えば、原理的には生体材料のような環境変化に弱いものの表面にも
デバイスを作製することができるとの事。
かなり画期的な研究成果だと思います。印刷プロセスの低温化はこれまでも研究されてきていましたが
フィルムの耐熱温度(100℃)程度の加熱が必要であったりと条件の制約がありましたが
今回は完全な室温の状態で素子を形成しており、加えて特性も良好との事で、
プリンテッドエレクトロニクスの開発の加速が期待されます。
岡山大学ニュースリリース
有機薄膜トランジスタを室温印刷によって初めて形成 1℃の昇温も行わない室温プリンテッドエレクトロニクスを確立
物質・材料研究機構ニュースリリース
有機薄膜トランジスタを室温印刷によって初めて形成
1℃の昇温も行わない室温プリンテッドエレクトロニクスを確立
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発電する紙

物質・材料研究機構と岡山大学は、有機薄膜トランジスタ(TFT)を室温で印刷によって作ることに初めて成功した。プラスチック基板、および紙基板上に形成した有機TFTの移動度(動作性能)は、酸化物半導体を活性層に用いる量産品のIGZO TFTに匹敵し、アモルファスシリコンTFTに比べても約16倍の性能を達成した。
物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、岡山大の異分野融合先端研究コア助教兼、コロイダル・インク(岡山県総社市)社長の金原正幸博士らが共同で開発した。
研究チームはすべての印刷プロセスを大気下・室温で行い、1度Cも昇温することなくデバイスを製造できる「室温プリンテッドエレクトロニクス(PE)」を確立した。今回、金属ナノ粒子の配位子として導電性を持つ芳香族性の分子を使い、塗布後に焼成することなく金属皮膜を作る手法を開発した。表面に微細な親疎水パターンを形成し、常温導電性金属ナノ粒子と有機半導体を室温プロセスでパターニングし、電極などを室温印刷によって作製する。
インク状の材料を印刷してデバイスを作製するPEは、大面積化が容易かつ低コストな技術として注目を集めている。室温PEを使えば、原理的には生体材料のような環境変化に弱いものの表面にもデバイスを作製することができるという。
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